WOMEN:WOVENは、アカデミックな所属の有無を問わず哲学の営みに繋がり続けたい女性(ただし、その定義は問わない)のための自助グループとして、メンバー限定のSlackチャンネルの運営やイベント・読書会の開催を行なっています。
「セーファー」とは「より安全な場」を作ることを目指す言葉であり、数字のようにわかりやすい目標や達成はなく、常にそのあり方を模索するという姿勢がその意味に込められています。
近頃、WOMEN:WOVENの運営を担うオーガナイザーの間では、
・内外に向けて、よりウェルカムな雰囲気を出していくべきなのでは?
・メンバーに、WOMEN:WOVENがどのような場所なのかを伝えられている?
・今までのイベントとは違った企画をしてみる?
などなど、団体を盛り上げるための提案が上がっていました。
WOMEN:WOVENとは別の場所で、安全な場づくりがどんな風に運営されているのか知りたい!という考えに辿り着き、今回オーガナイザーの坂本・竹内・浅葱の3名で、〈シスターフッド書店Kanin〉さんに取材させていただきました。
〈シスターフッド書店Kanin〉は、京極祥江さんと井元あやさんのお二人が京都府・左京区北白川にて2023年にオープンした独立書店です。〈Kanin〉とはデンマーク後で「うさぎ」で、お店の看板にもウサギのデザインが。“すこし偏った”という惹句のもと、ジェンダーやフェミニズムに関連した書籍を多く取り扱うほか、定期的な読書会や希望者へのカウンセリングを実施しています。
どのようにしてお客さんに安全な場を提供しているのか、店主の京極さんにお話を伺いました。
現在フリーランスのライターである京極さんと、公認心理師である井元さんは小学校からの幼馴染。二人とも『源氏物語』が大好きで、登場人物になりきって短歌を送り合ったり、他にも面白いと思った本をおすすめしあったりと、「本を介したコミュニケーション」を通して友情を築いてきました。
そんな2人が〈シスターフッド書店Kanin〉を始めたのは、人生の様々な出来事を経て、2人とも京都へ移り住んだからでした。
京極:「せっかく集まってるんだし、本屋やる?と。本が好きだから。女性で、さらに氷河期世代で、人生でものすごい苦労をいっぱいしてきた。だったら、女性が安心して来れて、女性の人生の悩みに対して少しでも答えになれるような本を置きたいよね、と話して、ジェンダー・フェミニズムの書店を始めたんです。」
Q:場を運営する上で、ウェルカムな雰囲気を出していった方が良いのではないかと考えています。女性が安心して来られる書店であると同時に、そのような雰囲気を作るために気をつけていることはありますか?
京極:「ウェルカムな雰囲気は、正直無いと思います。路面店じゃないし、バスでしか来られないし。(アクセス面で)実はすごく人を選んでいると思います。」
そうきっぱり答えた京極さん。実際に〈シスターフッド書店Kanin〉を利用するお客さんの95%は女性。ふらっと立ち寄るというよりも、フェミニズムについて周りに話しにくかったり、女性特有の悩みを話しても聞く耳を持ってもらえなかったり……といった特別な思いを持って足を運ぶ方が圧倒的に多いんだそうです。
京極:「路面店で色んな人があわただしく出入りするよりも、ウェルカムでは無いけれどこのあり方のほうが安心できると思います。」
他にも、読書会では7つのグラウンドルールを設け、お客さんが安心して過ごすための工夫を整えている〈シスターフッド書店Kanin〉。
仕入れる本の選定基準にもその姿勢は現れていて、特定の属性の人々へのヘイトや差別を煽る書籍は一切置かないとの事。
京極さん曰く、フェミニズムが一人一派、色々な考え方があると言われる中でも、自分は女性差別されたくないのにトランスや外国人は差別されても問題ない、というのは明らかにおかしい。だからあらゆる差別を煽る本は除いた上で、店主二人がそれぞれ興味を持った本が販売されています。
お二人の趣味嗜好が異なるので、バリエーションの確保は無問題だそう。
書店以外での仕事を同時進行させながら、目まぐるしい日常の中で〈シスターフッド書店Kanin〉を営むお二人。京極さんは、自分たちにとって本を売ることは社会活動だと話します。
京極:「私たちは氷河期世代で、当時は仕事がないのも自己責任だと思っていました。でも後から、本当は社会制度や政治がおかしかったからで、切り捨てられた世代だったからというのが分かってきた。そして、おかしい事に対して何も言わず反対を表明しないでいれば、陰で偉そうなことを言ってもどの面下げて…と自分で思ってしまうんです。だからここ(Kanin)は儲けよりも社会活動。デモに行くのと同じです。ここで本を並べながら声を上げています。」
Q:WOMEN:WOVENの団体趣旨にも、男性中心的な哲学アカデミアに異議を唱えるという、自分たちを主体にした社会活動に近い要素を含んでいます。それでも、場の内部に来てくれた方に対して何か「ためになる」ことを提供しなければならない、提供できているのだろうかと不安に感じます。その点はいかがお考えですか。
京極:「来た人全員を同じ程度に満足させるのは難しいと思います。ためにならないと思った人は自然にいなくなっていきます(笑)。(そもそも当店は人を選ぶ形になっているので)来てくれるのはみんなためになると思ってくれている人だと思います。」
就職氷河期をはじめ、人生の様々な出来事を通してフェミニズム思想を体得してきた京極さん。話題は、それぞれの日常の中で感じる男性中心社会に由来する生きづらさに移ります。
京極:「急に道端で知らない男性に『オバハン!!』と呼ばれるんですよ。以前住んでいた東京では他人に対する心理的な距離がある程度確保されていたけど、京都はそれがあまり無い上に、「相手が男性だったら絶対言わなかっただろ」と思わず言いたくなるような振る舞いに遭うことが多い。性別役割も強固だし、京都は東京よりもかなり性差別がきついなと思っています。なので、そういう土地でこのような書店を開く意味はあると思いますね。女性問題の専門書を取り扱う日本で初めての店ができたのも、ここ京都でした。(1982年、ウィメンズブックストア松香堂)」
Q:学問の世界でも権威ある立場にいるほとんどは男性で、指導という名の下に研究を否定されたり、理不尽な扱いをされると自信をなくしてしまいます。
京極:「めっちゃくっちゃ下駄はかされてますからねあの人たち!!(笑)ただ、わーっと言い返しても潰されちゃうので、心で「まぁ高下駄はかされとるしな〜」って、はいはいって聞き流しちゃっても良いと思います。男性は主に女性にケアをしてもらえて時間が無限にあって、対して女性の多くはケアすべき対象がいて時間が無限にあるわけじゃない。その人の矜持も今の立場も、ケアする人がいたから成立してるわけです。だからもしケアをする女性たちにその必要がなかったら、女性の教授はもっと増えていたでしょうね。」
Q:体力がないという自分の悩みが、他人からケアを受けた男性だったり、それこそスーパーマンのような人と比較しているゆえなのですが、これに対してはどのような捉え方ができるでしょうか?
京極:「他人からケアを受けた男性やスーパーマンのような人の体力を100、質問者さんの体力を80とします。そもそもの前提から違うのに、もし質問者さんが自分以外のケアに60体力を使ったらさらに減って残りの20対100になるので、そりゃあ負けるに決まってるやんとは思います。」
Q:最後に、男性中心社会で女性同士が連帯することの力についてどのようにお考えですか。
京極:「一人だけでいると周囲の人がみんなキラキラして見えて、自分が苦しいのは自分のせいなんやと責めてしまいます。自分を否定して縮こまっちゃう。でも、そのキラキラして見える人と話してみると、相手も実は全然キラキラしていない、うまくいかなくて自分を責めていて、なんやみんな一緒やん!とわかる。すると、困っている相手に『私パン2つ持っとるからほな1つあげるわ』みたいな関わり方ができるようになると思います。」
いかがだったでしょうか。
KaninさんとWOMEN:WOVENの取り組みの間には似た部分とそうでない部分もあり、「安全な場」のカラーには作った人の思いがダイレクトに反映するのだな、とお話を聞きながら気づきました。
身にかかる生きづらさを吹き飛ばすような、京極さんの大きな笑い声がとても印象的でした。
オーガナイザーの皆さん、お話を伺ってみて、どんな感想を抱きましたか。
坂本:「ウェルカムじゃない」、「ためになるかならないかはお客さんが決める」という言葉にハッとさせられました。どちらかというとWWは避難所で、Kaninさんは明確なプロテスト活動だと思ったのですが、それはやはり店主お二人の反骨精神がすごいからです。お客さんだけでなく、まず店主のお二人自身が主体となる場としてのセーファースペースの力強さを感じられました。
竹内:私もKaninさんのお二人と同じく京都に住むなかで、しばしば強く根づいた女性蔑視に出会うことがありました。そのなかでお二人が〈シスターフット書店〉を掲げる場所を守ってくださっていることにはとても励まされます。お店の空間はカフェなども併設されてとても居心地がよく、本を選びながらふだんしまい込んでいる関心をゆっくり思い出すことができました。こうした心地よい場所が、同時に明確なプロテストともなることに、私たちの活動も刺激を受けたように思います。
浅葱:屋号を通してスタンスをはっきり示すことで生まれる安心があるのだと気付けました。「シスターフッド」の言葉を掲げるという政治的なことは、独立書店だからできた事だと思います。私が住む街の大型書店だと、フェミニズムの書籍が置かれたコーナー名は「性別問題」で、誰がどのような構造の下で抑圧されているのかを曖昧にした、モヤモヤする表記になっているんです。対してKaninさんは一目で「わかってるぞ」というのが伝わるので、たとえ遠方で頻繁に足を運ぶことが難しくてもそういう書店があること、あると知れること自体が人を生きやすくすると思います。WWが提供する場と安心も、同様の方向性が取れそうです。
改めて、取材させていただき誠にありがとうございました。
【シスターフッド書店Kanin】
〒606-8277
京都市左京区北白川堂ノ前町1 デュ北白川105
営業時間:月・木・金12:00~17:00、水12:00~16:30、土・日12:00~18:00(火曜定休)
Instagram:https://www.instagram.com/kaninbooks/
X:https://x.com/Kaninsisterhood
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執筆・浅葱
写真・浅葱